16. バルーン空を行く 【コラム:異文化の海を泳ぐ】

さて昨今話題を振りまいている事件に、中国の気球が米国上空約6万フィートで横断飛行し最終的には大西洋上空でミサイルにより撃墜されたというものがあります。この直後に他の3つの未確認物体が相次いて撃墜されたというおまけ付きのものでした。最初は米国政府がアラスカ上空でこのバルーンを確認したと発表したとのニュースから始まりました。

その後逐次動向が発表されつつ最終的な撃墜に至るまで他国の物体の上空通過を許した形となり、これが大きな反響を呼びました。それは現政権がこの飛行物体への対応が遅かったというものです。野党である共和党が現政権を非難する事は今に始まった事ではありませんが、ある世論調査によると国民の過半数が現政権の対応が遅いと思っているとの結果が報じられました。

これは私にとって大変興味深いものでした。政府発表によると、この措置に至った理由は上空での撃墜は地上での損害が懸念された事、アラスカに入る前に撃墜すると残骸の回収が困難でこの飛行物体の真の目的が十分把握できず、中国の気象観測気球であるとの主張に十分な反駁ができない事等があげられました。又、本土上空飛行中も絶えず監視飛行を続け電波傍受、要あれば電波妨害を行っていたともいわれ、この飛行物体の危険性が少ない事を確認しつつ飛行を続けさせたという事は十分考えられる事です。他の未確認物体は高度が通常の航空機が飛ぶ2万フィートと低かった事もあり不測の事態を避ける為として即座に対応しています。これらの対応に関するブリーフィングを受けたさる共和党議員はこの対応は極めてReasonableというコメントを残している事から見ても私の考えはまあ妥当ではないかと思います。

にもかかわらず、何故多くの人達は対応が遅いと感じるのでしょうか? 私にはこれがアメリカの文化によるものではないかと感じます。皆様よくご承知の如く日米文化の違いで良く言われるものに、決断までの時間があります。日本ではリスク最小、事前の十分な検討を経て決定をするのに対し、アメリカではリスクをとった上で素早く決断する、と言われています。今回の事件ではまさにこれが現れたのではないかと私には思えてなりません。ここからは半分冗談ですが、世論調査はアメリカ的なリスクをとって早い対応、政府の対応は日本的なリスク最小にする為に十分な確認して対応という対象的なものでした。しかし、結果に責任ある立場での結論と評論家的な立場での意見とはおのずから大きな違いがあるのは論を待つまでもなく明確ですね。

もう一つ例をご紹介します。私がカナダで暮らしていたころ、米国の有名なスーパーマーケットがカナダのチェイン店を運営する同業社を買収し全店を自社ブランドに変えました。しかし約2年という短い期間で撤退をしました。カナダでの事業が採算に合わないとの判断からと聞いていますが、日本人の私から見ると事前にもっと入念な採算性調査をしなかったのだろうか? 又、それなりの投資をしたのだからもう少し頑張ってみる手はなかったのかとの疑問がわきます。詳細な経緯はわかりませんが、私にはこの事例がアメリカ文化の一端を表し、私の疑問が日本文化を起点としたものと思えてなりません。読者の皆さんはどう思われますか?

それでは次回又お目にかかりましょう。

* この記事はデトロイト日本商工会の会報「Views」に2023年3月に掲載されたものです。

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